真っ赤な秋

真っ赤な秋

11月も後半になると、家の周りの木々も赤や黄色の深い色に染まっていきます。

『染まる』というよりも、『熟れていく』という表現の方が合っているような気もします。

私は、この時期になるといつも思い出す歌があります。

『真っ赤な秋』という童謡です。

 

♪真っ赤だな 真っ赤だな

つたの葉っぱが 真っ赤だな もみじの葉っぱも 真っ赤だな

沈む夕日に照らされて 真っ赤な頬っぺたの きみとぼく

真っ赤な秋に 囲まれている♪

モミジの葉っぱ

 

娘が通っていたお寺の幼稚園は、毎月、その月のお誕生日の園児たちのためにお誕生日会が催されて、親も一緒に同席しました。

娘は本来なら4月から3年保育で幼稚園に入園する予定だったのですが、夏に弟が生まれたばかりで、少しでも早くお友達と遊べた方がいいだろうと親が勝手に思い、9月から入園させたのです。これが大きな間違いでした。

団体生活(年少組は15人ぐらいだったのですが)に慣れていないのに、いきなり運動会の練習で、娘は戸惑ってしまったのでしょう。毎日、家を出るときは元気な様子なのに、園に行くと豪快に泣いていたそうです。

園が朝から静かなときは、園長先生が「今日は山本さんはお休みなのかい?」と担任の先生に訊かれていたとか…。

運動会が終わるまでは休ませることにしたのですが、運動会当日は娘と一緒に見学に行きました。朝の入場行進からずっと様子を見ていた娘は、閉会式の行進だけ出ると言い出し、あわてて体操服に着替えてみんなの列に並びました。そして他の競技は何も出てないのに、ちゃっかりご褒美のメダルとプレゼントをもらってきました。

その日以来、娘は元気に幼稚園に通えるようになり、園活動もみんなと一緒にできるようになりました。

特に運動会以降は、作品展のための工作や絵を描いたり、娘の得意なことが続くので楽しく取り組めたのでしょう。

そうやって迎えた11月のお誕生会。

笑顔でお誕生席に座っている娘を見ていて、ここまで待ってくださった先生方への感謝の気持ちで、私は胸がいっぱいになりました。

「お母さんも一言」と言われてマイクを差し出されても涙があふれて何も言えず、

「今日はお母さんの方が泣いちゃいました」とやっと言えたことを覚えています。

その時のお誕生会で、園児全員で歌ったのが『真っ赤な秋』でした。

 

“かも川親子の療育室”でも、園に行く時に泣くのです、お遊戯ができないと言って泣くのです、給食が全部食べられなくて泣くのです、という話を親御さんからよくききます。

そんな時、幼かった娘のことを思い出しながら、「とにかく少し待ちましょう」とアドバイスします。

もみじが、気温が低くなる度に深く鮮やかな赤を増して美しくなるまでに、時間はけっこう過ぎています。

ひとりひとりの子どもにとっての調度良い時が熟すまで待つことは、親にも先生にも必要な時間ではないでしょうか。

 

植物園の門へ続く並木道の欅(けやき)も、日ごとに赤く染まっていきます。

真っ赤な秋に囲まれて、私はふと思います。

30歳をとっくに過ぎた娘は、あの初めての運動会やお誕生日会のことを覚えているのだろうかと…。