シンデレラの靴

“かも川親子の療育室”の玄関には、『おとなのくつ』『こどものくつ』と書かれた足型を置いています。淡い緑色の大小のスニーカーの絵が貼り付けてあり、そこに靴を揃えて置いてもらうようにしています。最近は、中くらいの大きさの足型も置くようにしました。
当療育室には、ほとんどのお子さんが幼稚園・保育園の年少あたりから通い始めるのですが、年長や小学1年生になる頃には子どもの足も大きくなるものです。
「なんか小さすぎるよ」と言う子どもからの要望もあって、中サイズを作ったのです。

ちょっとした変化にも敏感な子どもたちは、「ねえ、どうしてもう一つ“こどものくつ”って書いてあるの」と聞いてきます。
「自分の靴と調度いいところに置いてごらん」と促すと、中サイズのところに置いてみたり、小サイズのところに戻したり。そうやって自分の体に合う場所を見つけることは大切なことだと思います。

 

私は今でも、二人の我が子が初めて履いた靴を大切に残しています。12センチの、私の手の平にのるくらいの小さな靴は、娘と息子が初めて地球の土を踏んだ靴なのです。ところどころが擦れていて、何度も転んでは起きて、頑張って歩いた、娘と息子の努力の勲章のように思えて、他の物は何でも捨ててしまう私ですが、これだけは捨てきれずに今まで持ち続けてきてしまいました。最近、これを残されても我が子も困るだろうと思い、いつかは入るであろう私の棺の中に納めてもらおうと考えるようになりました。

療育が終わって、玄関で靴を履くときに、「ねえママ、早くシンデレラの靴履いて」と言った子どもがいます。
「シンデレラの靴って、どこ?」とちょっと不思議に思った私の表情を見て、ママが教えてくれました。
「ガラスの靴ではなくて、お掃除やお料理やお手伝いさんみたいなことばかりしてた時の、可哀想なシンデレラだった時の靴のことです」
そう言ってママは自分の靴を指さしました。それは踵のないフラットな黒い靴でした。
「ああ、なるほど」と言って、何となくママと私は笑ってしまいました。

発達障碍のこども「シンデレラの靴」

東京ディズニーランドのシンデレラ城の中のお店にも、スワロフスキーの透明な光を放つガラスの靴が並べられていました。それは、素敵な王子様と結ばれることを願う女の子の憧れの靴。
しかしガラスの靴を履く前に、黒いペチャンコの靴を履くシンデレラがいたことを忘れてはならないのだと、子どもの言葉から教えられました。つらくても黒いペチャンコの靴を履く自分を受け入れて生きたからこそ、シンデレラはガラスの靴に自分の足を入れることができたのだと思います。